アレニウスの法則再び.

私のblogには、多くの検索エンジンから来られる方がたくさんいます.その検索エンジンでどういう単語を検索した結果このblogにたどり着いたか、ということがわかるようになっているのですが、圧倒的に多いのが、「アレニウスの法則」という言葉であります.一般の方にはほとんど関係のない言葉なのですが、どういうわけか、googleで検索すると、上から2番目に出てきます.

検索結果で周囲を固めている方々のページを拝見しますと、小難しい(と言っては失礼ですが)内容で、技術的、物理的に事細かな説明がしてあります.おそらく「アレニウスの法則」という言葉を検索した方々は、こういった小難しい説明を見たかったのではないかと思います.それに対して私のblogでは、「温度が10℃上がると寿命が半分になるので、パソコンはなるべく冷やして使いましょう」と言う程度のことしか書いていないのです.これは明らかに見た方には期待外れだと思うのですが….

その記事を書いてからもう1年近くたちますが、その後、私が仕事上で体験した「アレニウスの法則」がらみの内容について書いてみたいと思います.

まず「アレニウスの法則」の基本であります「10℃2倍則」ということ.つまり温度が10℃上がると寿命が2倍速く尽きるということ.これがどうもぴったり2倍ではない場合もあるようなのです.実は高温環境下での電気二重層コンデンサの寿命を計った事があったのですが、実験的には、10℃で2倍ではなく、7℃で2倍という数値が出ました.つまり、25℃を標準に考えると、75℃で使った場合には、温度差が50℃ありますから、2の5乗、つまり、寿命は32分の1になるはずなのですが、7℃で2倍という実験値を使うと、7×7が約50ですから、2の7乗、つまり寿命は128分の1になるのです.「10℃2倍則」に比べて4倍も速く寿命が尽きることになります.これ結構大きいですよね.

で、この数値を使うと、製品設計に大きな影響が出るということで、さらに、高温高湿耐久試験というのをしました.85℃で湿度95%というものすごい環境で耐久試験を行ったのですが、この結果がまた驚いちゃったんですねぇ.
さぞかし短期間で寿命が尽きたかと思いきや、いつまでたっても全然動作に支障が現れないのです.どういうこっちゃと思って、部品を外して容量を量ってみたのですが、それほど減っていないのです.高温で使っていたのですから容量が減って寿命が尽きていなければならないのに、そうはならない.なんで?

答えは、高温高湿試験の「高湿」です.電解コンデンサを含む、電解液を使ったコンデンサの寿命の大きな要因は、電解液の水分が蒸発して容量が減っていくことです.しかし、周辺雰囲気が高湿であれば、電解液は蒸発しないのです.試しに、高温試験で容量抜けを起こしたコンデンサを高温高湿槽に入れたところ、しばらくしたら容量が戻った、なんてことも起こりました.まわりの湿気が部品の中に入って、また電解液としての機能を取り戻したようです.

ということで今回の教訓.ありがちな話ですが、法則を鵜呑みにしていると、落とし穴に落ちることがある.地味な実験でもまじめにやるべし、と.