またうちの子のバレエの発表会の話ですが、自分の演技を終えて観客席に戻ってきた子供が、「お父さん、時間ってすごく速いね」と言うのです.私にはその意味がとてもよくわかったので、こう言いました.「そうだね、舞台が始まってから自分の出番までの時間はすごく早く感じるし、自分が舞台に出たら、踊りはあっという間に終わるしね」.すると、「うん、そう」という答え.何らかの習い事で発表会に出たことのある方なら、この感じがよくわかっていただけるのではないかと思います.
私は物心つく前からヤマハ音楽教室でエレクトーンを習っていました.そして毎年発表会に出ていたのです.発表会はとても緊張します.なぜなら、自分の練習が十分でないことは自分が一番よくわかっているから.そしてその演技を大勢の人の前で披露しなければならないから.途中で間違えたらどうしようか、に始まって、いろんな考えが頭の中をグルグル回ります.そうこうしているうちに時間は過ぎ、自分の出番となります.尻込みをしているヒマはありません.いざ舞台に上がってスポットライトを浴びたら、あとは訓練のたまもの、自動操縦のように自分の演技を終えて退場します.本当にあっという間に全てが終わる感じです.
そんな発表会、子供の頃は、純粋に自分の普段の練習の成果を披露する場だと考えていました.でも、いくら練習をしたからといって、幼稚園や小学生の演技を見てお客さんが喜ぶとは思えません.いま考えれば、本当の意味はまた違ったところにあるのではないかと思います.それは、人前で自分の演技をする、その緊張感に耐え、場数を踏むことでそれを克服すること.人前で何かするのに緊張しないということはないと思います.プロのミュージシャンでもステージの前は緊張するでしょう.でも、場数を踏むことで、そんな緊張した自分をもう一つ外側からコントロールする、もう一人の自分のような存在が見えてきます.そうすることで、なんといったらいいのか、緊張で制御不能の自分を制御できるようにする方法を学ぶ場が発表会なのではないかと思います.
これは社会人になってからの経験ですが、設計の仕事をしていると、何の前ぶれもなくいきなり大勢のユーザの前で製品説明を求められたりします.ちょっと考えられないような展開の中でプレゼンを求められたりもします.瞬時にして緊張感は一気に高まります.仕事なので、「あの、ちょっと、わたし、ダメなんで」といって逃げるわけにもいきません.そういうときに威力を発揮するのが発表会の気構えですね.どんなに緊張しても自分を見失わない、今やっていることに集中しながら、常に一歩先の展開に注意を払う、そういう訓練を子供の頃に10数回やっているのとやっていないのでは大きな違いがあると思います.
私はエレクトーンの公開レッスンというのを受けたことがあります.最新型のエレクトーンのPR活動の一つで、プロのエレクトーンプレーヤの小熊達弥さんを講師に、最新型のエレクトーンを演奏をするのは3人、見物人が100人くらい、全員エレクトーン教室の先生と生徒です.それぞれの演奏のあとで小熊さんがコメントを付けてくれるのですが、そんな中で私が選らんだ曲は、小熊さんが編曲をして、ご自身のコンサートなんかでも弾いていた「キャラバン」という曲.これを弾いたときの緊張感ったらありませんよ.もともと非常にタイトな編曲で、ミスタッチが許されない難しい曲なんですが、もう一生ゴメンこうむりたいというくらい緊張しました.曲を弾き終えたあとの小熊さんのコメント.「ボクのキャラバンを弾いてくれたわけですが、あなたはどんなキャラバンを弾きたいのでしょうか.もっとあなた自身のあなたらしさを出すようにしてください」.あの極緊張下で自分らしさを出すなんて、ホント10年早いです.
ということで、発表会、人前での演技の披露、緊張するばっかりで何も得るものはないように感じますが、とても大切な経験をしているのです.大人になってからもきっと生かせる場面があるぞ、と子供にも言い聞かせて、発表会には積極的に参加させようと思っています.
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