「閃輝性偏頭痛」.

「閃輝性偏頭痛」という病気(症状?)をご存じでしょうか.たぶん知らない方が多いでしょうし、ご自身でその症状を発症しながらも、「何か変だなぁ」と思う程度で気がついていない方もいらっしゃるかもしれません.わたし自身、その名前を知ったのは数年前で、それまでは「何か変だなぁ」と思っていました.症状を端的に言うと、視野のある部分において、モノが見えなくなります.その見えなくなっている領域が「キラキラ輝いて見える」という人が多いようで「閃輝性」という名前なんだそうです.そしてそれがおさまったあとで頭が痛くなることが多いようで、「偏頭痛」なんだそうです.

わたしがその症状に初めて出会ったのは30歳くらいの時でしょうか.会社で仕事をしている最中です.何とも表現しづらいのですが、目がおかしくなりました.目が見えないわけじゃないんだけど、字が読めない、という状態になったのですね.ピントが合わないとかそういうんじゃないんです.「何か変だなぁ」と思っているうちに、字は読めるようになったのですが、どうも視界の様子がおかしい.でも目が見えないわけじゃないんです.「おかしいなぁ」と思っているうちに30分ほどで、目は正常に戻りました.最初はなんだかワケがわかりませんでした.

でも、その症状は、その後も何回かやってきました.そのたびにだんだん様子がわかってきました.まず、視野の中心、モノを見るときに注目するあたりからおかしな症状が発生します.その状態で字を読もうとしても読めない.でも、微妙に視線を外すと、何とか字が読める.ダメなのは中心点だけみたいでその周りはおかしくないらしい.そうこうしているうちに、おかしな領域は移動を始める.視野の中心から発生して、視野の周辺部分に向かって拡大していく.拡大していくと、視野の中心あたりは正常に戻る.おかしい領域は同心円状態でリング状に広がっていくけど、その形は毎回違って不定形.おかしな領域を一番似ているモノでたとえると、きめの細かいモザイクがかかったような感じ.そのまま広がっていって、30分ほどで視野からはみ出れば、目のおかしいのはおさまる.痛みも何にもなく、わたしは最初は目がおかしいのだと思っていました.

この症状が起こるたびに、いろいろと自分で実験してみました.まずやったのは、おかしな領域がある程度広がった状態で、視線を前に向けたまま、人差し指をたてて正面から横まで腕を振ってみる.そうすると、人差し指がおかしな領域にかかったとき、どうも見え方がおかしい.まあ、モザイクがかかっているのだから見え方がおかしいのは当たり前なんだけど.次にやってみたのは、蛍光ペンを使った実験.わたしの使っている蛍光ペンの軸は黒.キャップは当然蛍光色だけど、おしりのキャップも蛍光色.それで、蛍光ペンを逆さに握ってキャップを手で隠し、さっきと同じように視線を正面に固定したまま、蛍光ペンを正面から横まで移動させる.普通なら、蛍光ペンのおしりキャップの蛍光色がずっと見えているはずなんだけど、それがおかしな領域にかかると、とつぜん蛍光色が見えなくなることを発見した.腕を微妙に動かしておかしな領域に蛍光ペンを出したり入れたりするのだけれど、確かに蛍光色が見えなくなる.どうもモザイク領域はモノが見えているように感じているだけで、実際は何も見えていないらしい.

見えているように感じるのに、実際は何も見えてないって、それって目がおかしいんじゃなくて脳がおかしいんじゃないのかなと思い、次にやってみたのは片目ずつのテスト.蛍光ペンを使っておかしな領域をチェックしてみると、右目も左目も、おかしな領域はまったく同じ.しかも、時間とともに形を変えながら広がっていく様子も左右で同じ.左右同時に同じ形で目がおかしくなることは無かろうということで、これは脳がおかしくなっているんではなかろうかと思いました.今度おかしな症状が出たら病院に行ってみようと思ったのだけれど、そうそうこっちの都合よく症状も出てくれない.

そうこうしているうちに、夜、高速道路を車で走って実家に帰る途中で、おかしな症状が出てしまいました.この時わかったのは、車を運転する時っていうのは、目が注目しているところよりも、周辺部分からの情報がとっても大切だということ.最初は制限速度表示の数字が見えなくなって、おかしな症状が出はじめていることに気がつきました.そのうち、いつものようにおかしな領域は視野の周辺部分に広がっていきます.最悪だったのは、正面を向いた状態で、おかしな領域がルームミラーの位置に来たとき.正面を向いている時ってルームミラーなんか見ていないように感じますが、実際にルームミラーの部分からの情報が途絶えると、ものすごく運転しづらいというか、危険です.正面を見ながらも、ミラーに映る車のヘッドライトの感じから、近づいてきてるのか離れていってるのか、距離はどれくらいか、だいたいわかってるみたいです.この領域が見えなくなると、それを確認するためにいちいち視線をミラーのほうに変えなければならず、当然その時は正面は見れませんから、本当に運転しにくいです.なんとかサービスエリアまでたどり着いて、おかしな領域が視野から外れるまで休憩しましたが、ホントに難儀しました.

で、実家に着いて、そのことを両親に話すと、父が意外なことを言い出しました.「それは閃輝性偏頭痛っていうんだよ.オレも時々なるんだ」だって.父は医者にその症状を話したところ、「閃輝性偏頭痛」という言葉を教えてもらったそうです.やっぱり頭がおかしくなっているんだと理解し、私も脳神経外科で検査もしてもらったのですが、特に問題になりそうな点はないということでした.

その「閃輝性偏頭痛」ですが、ここ数年は発生していません.このまま何も起こらなければいいんですけどね.たぶん仕事のストレスが一番の原因だったのではないかと思います.同じような症状を感じたことのある方は、いちど病院に相談に行った方がいいと思います.