いただきもの.

もうとっくに定年退職をしましたが、私の親父殿は新聞記者をやっておりました.で、私が中学生くらいの時に、当時の西ドイツのボンに特派員に出ていたことがあります.その時使っていたのがニコンのFEというカメラ.これを私が高校生くらいの時にもらって、使っていました.そのニコンFE用のモータードライブというものを偶然オークションで見つけました.高校生当時は高くて高くてとても買えるモノじゃなかったのですが、オークションでは¥3000くらい.必要性もないのに無性に欲しくなって、落札しました.もう10年近く使っていなかったニコンFEに装着して、単三電池8本を入れて(重たっ!)、シャッターを押すと、「カシャー、カシャー、カシャー」とかっこいい音.秒間3.5コマだそうです.そんな昔のものがちゃんと動くことにちょっと感心しました.


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そんな話を、先日、名古屋の実家に帰ったときにしていたら、親父殿がゴソゴソと棚の奥から出してきたのがこのカメラ.ライカのM3です.私はカメラにはたいして詳しくはないのですが、ライカという名前は知っていましたし、M3というものがイイという話、そしてとっても高価であるという話くらいは知っていました.で、親父殿が言うのです.

「これ、やろうか」
「なんで?」
「買ったのはいいけど、使ってないし」
「でも、これって高いんじゃないの?」
「ああ、ドイツで買ったときにボディーだけで10万円くらいだったかな」
「そんな高いもの、よく買ったねぇ」

という言葉に、趣味にお金をつぎ込むというような姿を一度も見せたことの無かった親父殿とは思えないような言葉を吐いたのです.

「昔から欲しかった、あこがれのカメラだったんだよなぁ」
「この広角レンズだけでも20万くらいだったかなぁ」
「やっぱり広角レンズが好きなんだよなぁ」
「レンズのボケ具合がたまらなくいいんだよなぁ」
「この、『チャッ』っていう軽いシャッター音がいいだろう?」

まあようするに、欲しくて買ったはいいけれど、結局ろくに使いもしないまま、ずーっとしまってあったみたいです.私はマニュアルフォーカスには慣れていますが、しかしM3は、絞りもシャッタースピードもマニュアル.露出計も付いていない.その時のカンで絞りとシャッタースピードを合わせて、写真を撮るしかないのです.私が使いこなせないのは明らか.でも親父殿はもういらないって言うし、まあ、親父殿が死んだあとには形見になるかなと思ってもらってきました.

しかしこれどうしたもんか.高価でかつ良いものだけに、死蔵しておいてももったいないし.かといって、親父殿が憧れ続けてやっと買ったカメラであり、たぶん人生で唯一の無駄遣いなんだろうし、そんなことがわかっていると、これ幸いとオークションで売り払って現金化するなんていうことも出来ないしなぁ.有効に活用してくれる人に使ってもらってこその、良いカメラなんだけどなぁ.まあ、とりあえず三脚と露出計でも買って、紅葉の写真でも撮りに行ってみようかなぁ.