胆石症、ほぼ完治して思うこと #1.

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私が胆石症で入院、手術をしてから1ヶ月も過ぎてしまいました.この写真が、私の胆嚢の中から出てきた胆石です.手術直後のナースステーションでは、「すご〜い、2つともけっこう大きいし、色違いで形もきれいで模様まで入っているのが出てくるなんて珍しい!」って、看護婦さんの間でちょっと盛り上がったそうですけれど、その頃私は「痛い痛い」と言いながらベッドに寝ていたわけです.「腹腔鏡による胆嚢摘出手術」というのは、外科の手術としては、盲腸の次くらいに簡単だといわれているようなんですけれど、なめてましたね.中学校で初めて保健体育という科目の勉強をしたときに、たった一つだけはっきりと覚えているのが、WHOが定めた「健康」ということに対する定義.そもそも健康に定義があるなんて思ってもみなかったのですが、確か「身体的にも精神的にも良好な状態であること」だったと思います.「身体的」はわかるとしても、「精神的」ってどういうこっちゃ、と思ったのをはっきりと記憶しています.まあ、その後に、「精神的に健康」ということについて、いやというほど痛い目にあったわけですが、それでわかっていたはずのことがわかってなかったんです.


私はマイコンの技術屋ですので、どうしても技術屋的な考え方をしてしまいます.しかも極めてデジタル的に.手術前に先生から説明を受けたときも、モロモロの検査結果から想定される範囲外の手術になる可能性について、例えば、検査で見つけられないほど小さな結石が胆管に有る場合は開腹手術に切り替えて胆管を全て掃除するとか、症状が予想以上に進行していて胆嚢とほかの臓器が癒着している場合とか、胆石症のつもりが胆嚢癌を併発している場合とか、そんなイレギュラーな手術になる可能性は5%も無いと、そう説明を受けました.私は、「5%なんて誤差の範囲内だから全然問題ないわ」と思っていました.手術前には、麻酔科の看護婦さんが来て、全身麻酔の手順(病室で点滴を開始した後で筋肉注射をして病室のベッドごと手術室の前まで行って手術用のベッドに乗り換えた後で手術室に入ってから酸素マスクをして点滴経由で麻酔を入れる)とか、病室と手術室の看護師の着ている服の色の違いとか、メガネは手術室までかけたままで行ってもいいけど麻酔をかける前には外さないといけないとか、まあとにかく、なんでそんな細かいことまで説明するのかと思うくらいいろいろと説明してくれて、何より、「手術室に入ってからも常に私が横にいますから、何かあったら何でも言ってください」って、全身麻酔がかかるんだから何も言いようがないはずなんだけれど、なんて思っていたのですが、全ては私の不安感を少しでも取り除くために努力をしてくれていたんです.そういうことが全然わかってなかったんです.


私は入院した日の夜勤当番の看護婦さんに余計なことを言ってしまいました.まあ、クレームをつけるということではなくて、入院して半日ほどで気になってしまった看護婦さんの言動について話をしたっていうだけなんですけど、「看護婦さんって『ごめんなさい』ってよく言うんですね」って言ったんです.その時には「私はちょっと癖になっているかもしれなくて、確かに『ごめんなさい』って言いすぎているかもしれません」って看護婦さんは答えてくれたんですけれど、私の言ったことが間違っていることがわかっているにもかかわらず、「それはそーじゃなくって...」って、あえて反論しなかったんですよ、きっと.


看護婦さんは本当によく「ごめんなさい」って言います.例えば、翌日の手術の準備として私は4種類の下剤を飲んだのですけど、なかにはへんな味のものもあって、「この下剤はえらく酸っぱいですねぇ」って言ったら、「ごめんなさいね、おいしくなくって」って、そんな感じです.普通に考えたらそこで「ごめんなさい」は不要でしょう.私も必要があって下剤を飲んでいることはわかっているし、下剤に味わいを求めているわけでもないし、そもそも看護婦さんは何も悪いことはしていないんですけど、そういう状況でも、まず最初に「ごめんなさい」って言うことが多いです.あと、「ありがとうございます」も多いです.検温の時に体温計を自分で脇の下から取り出しただけで「ありがとうございます」と言われますし、検温が終わって部屋から出て行くときにも「ありがとうございました.失礼します」って.文章で書くとあんまりイメージが伝わりませんけれど、とにかく、「ごめんなさい」と「ありがとう」の大盤振る舞いだなぁ、と、ちょっと不思議な感じがしていたんです.手術をするまでは.


手術自体は本当に軽い部類です.切ったのは腹の皮を3cmくらいです.その下の腹筋は切っていませんから、開腹手術(腹筋をおもいっきり切開する)に比べたら痛みは本当に軽いんです(それでも、痛み止めの座薬を一回入れてもらいましたけど).手術後の一晩は、ナースステーションの隣の「手術後専用室」みたいなところに入るのですが、その一晩でつらかったことといえば、体に装着された機器類(自動血圧測定器とか、酸素マスクとか、血栓防止用のマッサージ器とか)と、チンチンから膀胱まで貫通しているオシッコドレーンチューブの違和感と、たぶん全身麻酔の影響で体温調節能力がいかれてしまったのか、寒いのに暑くて汗がダラダラ出るのと、それくらいですか.手術後の状態としては間違いなく非常に軽い部類だと思うのですが、それでもつらい思いをしました.次の日の朝になれば機械は外されて普通の個室に移って、さらに歩く練習も始めるということだったので、とにかく一晩の辛抱だと思い、眠ることはあきらめて頑張るつもりでしたし、一晩くらいは頑張れる自信はあったんですけれど、やっぱり精神的には押されていたんでしょうね.手術前まで違和感を感じていた看護婦さんの「ごめんなさい」と「ありがとう」の大盤振る舞いの効果があらわれてきたんですよ.


定期的に回ってきてくれる看護婦さんは、体温計を私が自分で渡すたびに「ありがとうございます」って言いますし、「ちょっと足もとの布団をまくってもらえませんか」って頼むと、「あら、ごめんなさいね、ちょっと暑かったですね」って言ってくれます.一番つらかった一晩の間に何回「ごめんなさい」と「ありがとう」を言われたことか.でもね、それを聞くたびに、不思議なことに、つらい気持ちがちょっとだけ楽になった気がするんです.最初のうちは「あれ?ナニこの感覚」って思っていたんですけれど、たしかに「ごめんなさい」と「ありがとう」を言われるたびに、薄皮をはがすようにちょっとだけ気持ちが楽になるんです.ただ、それは一時のことで、すぐに元のつらさに戻ってしまうんです.だから気のせいなんです.気のせいなんですけれど、「楽になった気」になるんだから、気のせいでもいいんですよ.


手術後の一晩で、看護婦さんが「ごめんなさい」と「ありがとう」の大盤振る舞いをする理由が何となくわかったような気がしながら朝を迎えて、機械も点滴もチューブも外されて、普通の病室に移動しました.


次回に続く.