最新の医療っていうのはまったくすごいね.

先日、私の親父殿が胃ガンの宣告を受けたということを書いたのですが、その手術がこの間ありまして、その入院前から手術後しばらくまで、実家に帰って看病の手伝いをしてきたのですが、最新の医療っていうのはすごいねぇ、と、感心してしまうことしきりでした.自分自身もちょうど1年前に胆石症で腹腔鏡による胆嚢全摘出手術というのを受けているのですが、その手術はツワモノになれば日帰りで行えるほどという噂も聞いていました.ですので、自分の入院手術なんて大したもんではないと思っていました.手術の次の日の朝には自分で歩いて便所に行けとか、その日の昼から通常の食事を食べるとか、そんな扱いを受けるのは本当に軽い手術だからだと思っていたのです.ところが聞いただけでもヘビーな気分になる「胃ガンによる胃の全摘出手術」なんていうものでも、今の流れはそんなんだったんです.


手術の前の日に、手術についての説明を受けます.私の時もそうでしたけれど、手術を始めてから、または、終わってから、そんな話は聞いてねぇ、と言われても医者も困るので、その時点で考えられる最悪の状態を事細かに説明されます.私の場合は胆石でしたので、最悪、開けてみたら胆嚢のガンだったという可能性が2%くらいあるかもしれませんという程度だったのですが、親父殿の場合はモノが胃ガンですから、最悪の場合の話をすれば、「あなたは手術中に死にます」と言っているようなものです.または、「開けてみたけれど手のほどこしようがなかったのでそのまま閉めました、という手術もありえます」なんて話になるんですね.でまた先生のほうもキツい話をしているのが辛いようで、額から汗をダラダラ流しながら、でも規則なので紙に書いてあることは1つも漏らさずに説明するんです.まあそれも仕事ですから.で、最後に質問したんですけれど、「最悪の事態はよくわかったんですけれど、先生が予想できる範囲内で最善の状態ってどうなんでしょうか」って.そうしたら、「ガンが胃の中にとどまった状態で他に転移していない場合、胃と周辺のリンパ節を摘出するだけで済みます」ということでした.そして次の日に手術が終わって手術室からベッドに付き添って出てきた先生の顔がニコニコしているのを見て、最悪の状況ではないことを確信し、その後の先生からの説明で、おおよそ前日に聞いた「最善の状態」であることがわかりました.検査の結果を待たなければなりませんが、見た目での明らかな転移はなかったということのようです.ちなみに、胃ガンは型で分類されますが、親父殿は4型という胃ガンの中では一番たちの悪いやつでした.アナウンサーの逸見政孝さんがやられたのが4型です.そして事前の検査では、ガンの進行度はステージ3から4と言われていました.ステージ4だと、ガンが胃の外壁から露出してしまうため、おなかの中にガン細胞が散らばってしまって、その時には手のほどこしようがないという、そういう状態ですので、ステージ3でとどまってくれているかどうかが非常に心配だったのですが、実際に切り取った胃を見たところでは、ステージ3まで行っておらずステージ2かもしれないと、それは検査してみないとわからないんですけれど、そういうお見立てでした.まさに、先生が予想した「最善の状態」であったわけで、そういう意味では見事に予想通りだったわけです.


さてそんなこんなで手術は終わり、病室に帰ってきても特にすることはないんですね.痛み止めが効いているからキズが痛いとか全然言わないし.まあ言われても私たちには何もすることはないんですけれど.おしっこドレーンを初めて見ました.ああいうふうになっていたんですね.自分の時には自分で見るわけにはいきませんし、看護婦さんがベッドの脇で「ジャーッ」とやっている音を聞いていただけで.親父殿が「ション便がしたいのに出ねぇ」と言うので、「それはおしっこドレーンが入ってるからで、ちゃんと出てるよ」って言ってやりました.


最初の一晩は酸素マスクがつけられて、脈拍なんかを監視する装置が装着されます.その装置も、看護婦さんがいないときは画面消すんですね.見てみたら「スリープモードです」って表示されていました.確かに看護婦さんがいないときに画面表示しておく意味は無いですもんね.情報は無線でナースステーションにちゃんと転送されていますし.


手術の次の次の日でしたか、酸素マスクも監視装置も外されて、点滴とおしっこドレーンだけになった状態で、「じゃあ、ちょっと起きてみましょうか」と、ベッドを起こして座ってみて、「何ともなかったらちょっと立ってみましょうか」と、点滴のスタンドにつかまって立ってみて、「何ともなかったらちょっと歩いてみましょうか」と、そのまま病棟1周の散歩に行ってきました.75歳ですよ、胃の全摘出ですよ、それから2日しかたっていないのに散歩って、ちょっとビックリしましたけど、帰ってきた親父殿に「何ともない?」って聞いたら、ニコニコしながら「ふしぎだなぁ、何ともないや」だそうです.私は胆石の手術が軽かったから次の日に歩かされたわけでもないんですね.開腹で胃の全摘出でも75歳でも、次の日には歩くんですよ、最新式では.すごいなぁ.


それから看護婦さんが「ちょっとおなかを見ますね」と言ってパジャマをめくると、なんと包帯はおろかガーゼも絆創膏も何にも無しで、しっかりとハムのように縫い合わされた傷跡がそのまま見えます.思わず「こんなんで大丈夫なんですか?」って聞いたら、「うーん、ちょっとキズが大きめですけれどねぇ」って、「イヤそうじゃなくて、絆創膏とか無くてもいいんですか?」、「あ、最近はみなさんこんなふうですよ」ということで、確かに見た限りでは出血もないし、赤くもなっていないし、ただハムのようにしっかりと黒い糸で縫い合わされているだけですけれど、あんなにあからさまにむき出しでいいんだろうかと心配になってしまいますが、最新式ではあれでいいようです.私の胆石の時はホッチキスのようなモノで止めてありましたけれど、その時にはいちおう絆創膏が貼ってありました.胃の全摘出手術っていうと、けっこうたいそうな手術のように感じますけれど、術後の対応を見ているとそうでもないのかな、けっこう軽めの手術なのかなって、そんなふうに思えてしまいます.


その後も順調に回復して(入院するときに、胃の摘出手術をしたときの回復スケジュール表なるものをもらったので、標準的に何日目で何をするかがわかります)、3日目には自分で起きる方法(横を向いてベッドの下に足をおろして手の力で起き上がるヤツ)を教えてもらい、自分でトイレに行けるようになったのでおしっこドレーンも外れて、あとは点滴だけ.体を拭いてもらっていたのも、自分で出来るからいいと断るようになったり、散歩も自分で勝手に出来たり、75歳とは思えない、すごい快復力です.ちなみに親父殿は30年前に私と同じ胆石症で、開腹による胆嚢摘出手術を受けているのですが、その時どうだったか聞いたら、「5日間絶対安静だった」そうです.「昔とはえらい違いだなぁ」と感心していました.


そこらあたりまでを見届けて帰ってきましたけれど、順調なら今頃はおかゆが食べられて、点滴も外れて、シャワーにも入れる状態のはずです.そしてさらに順調に回復すれば、半年くらいで、普通のものを普通に食べられるようになるとか.さすがに分量は無理ですけれどね.ガンなんて聞くと死ぬかと思うような病気だったはずですけれど、最近は違うんですねぇ.ホントにビックリします.あとは検査の結果ですね.ガンの転移がなければ完治ですから.すごいなぁ.